ふんふん古事記36 木花之佐久夜毘売
邇邇芸命(ニニギノミコト)は、大山津見神(オオヤマツミノカミ)の娘、木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤヒメ)を妻にしたい旨を伝えました。このことは使いを通じて父君の大山津見神に届きました。父は喜び、沢山の結納の品を用意しました。そして、姫の姉の、石長比売(イワナガヒメ)をも添えて娘を差し上げたのです。
しかし、瓊瓊杵命はあまりに醜い顔をしていた姉の方を父神に返してしまわれました。そして妹だけを留めて一夜、寝所で過ごされました。
父神の大山津見神は、姉の石長比売が返されたことを恥じ入りながらも次の文を書きました。
「私が二人の娘を差し出しましたのは、石長比売を側に置いていただければ、天つ神の御子のお命は、天が荒れようとも、常に石のように変わらず動かないよう、そして、木花之佐久夜毘売を側に置いていただければ、木の花が咲くように栄えますようにと、願をかけて送り出しました。しかし、石長比売を返し、木花之佐久夜毘売を留められたからには、今後、天つ神の御子のお命は、桜の花のようにもろくはかないものになることでしょう」
このことがあってからは、今の世まで天皇命(すめらみこと)のお命は、限りあるものとなり、寿命が与えられて、短命になりました。
それからしばらくして、木花之佐久夜毘売が邇邇芸命のもとに来て言いました。
「私は妊娠しました。この子を産むにあたり、天つ神の御子は、私事としてこっそり産むべきではありませんので、お伝えしました」
「佐久夜毘売よ、たった一夜の交わりで妊娠したと申すか? それは私の子ではない。国つ神の子であろう」
「私が産む子が、もしも国つ神の子ならば、無事に出産することはありません。しかし、その子がもし天つ神の御子であるなら無事に出産するでしょう」
こう申し上げると、木花之佐久夜毘売は出入口の無い八尋殿(高い神聖な建物)を作り、その中に入りました。そして、内側から土で塗り固め、出産が近づくと、その御殿に自ら火を放ち、燃え盛る火の中で子を産みました。木花之佐久夜毘売は体を張って、生まれた子が邇邇芸命の子であることを証明して見せたのです。