ふんふん古事記38 海幸彦、山幸彦 2
兄の海幸彦は山幸彦をゆるさず「元の釣針を返してくれ」というばかり。
弟の山幸彦は海辺で座り込んで泣いておいますと、潮の流れを司る神である塩椎神(シオツチノカミ)が現れいいました。
「お前はなぜ泣いているのか?」
山幸彦が全て話すと、塩椎神は、目が堅く詰まった竹籠の小舟を作り、それに山幸彦を乗せると次のことを教えました。
「この船で身を任せて進むのです。先に良い潮路が
あるので、そのまま進むと魚の鱗のように屋根を葺いた綿津見神(ワタツミノカミ)の宮殿があります。その御門に着いたら、傍らにある井戸の上に桂の木があります。その木の上で海神の娘のいうとおりにしなさい」
塩椎神のいうとおり桂の木に登ると海神の娘の豊玉毘売(とよたまひめ)の侍女が現れました。侍女が玉器で水を汲もうとした時に、井戸に人影が映っていたので、見上げると麗しい男神がいるのが分かり、いったいどうしたのだろうと思ったのです。
山幸彦が侍女に水を求めると侍女は玉器に水を汲み入れて差し出しました。すると山幸彦はその水を飲まず、自らの首飾りを解いて球を口に含み、その玉器に唾と一緒にお吐きになったのです。首飾りの玉は山幸彦の唾液の呪力によって玉器にくっ付きました。これにより、玉が侍女の主人の元に届けられ、自分が来たことを知らせることになりました。
侍女は、首飾りの玉がついた玉器を豊玉毘売に差し出しました。それを見た豊玉毘売が、聞きました。
「もしや、門の外に誰かいたのですか?」
「人がいました。井戸の上の桂の木の上に。麗しい男性で、海神と同じくらい、いえそれ以上に貴いお方です。その方が水を欲しいと仰せになったので、私が水を差し上げたのですが、水をお飲みにならずに、この玉を吐き入れられると玉器とくっ付き離れなくなったものですから、そのまま持ってまいりました」
豊玉毘売は、どういうことかと門の外へ出ました。そして山幸彦を見るとたちまち一目惚れしてしまいました。二人はしばらく見つめ合っておりました。