和菓子の神様-田道間守(たじまもり)
文部省唱歌集の中に「田道間守の歌」という曲があり、ずっと気になっていました。まず何と読むのか?歌詞の中の意味が理解できないまま、しばらく放ってあったのですが、たまたまネットで検索してみると、いくつかヒットして曲の意味が分かりました。田道間守は、古事記や日本書記にも登場する人物で、和菓子の神様だということを初めて知ったのです。
この曲を地域の小学校で毎月開催している「大阪市生涯学習ルーム」などで披露してみると、国民学校の時に習ったという方が数人かおいでになりました。その中のお一人が藤井富子(82)さん。和菓子屋さんをご主人と営んでおられ、早速次の回に、田道間守の歌の詞が染められている日本手ぬぐいを持参され、見せていただきました。ご主人が和歌山県海南市下津町にある橘本(きつもと)神社に和菓子をお供えして、宮司からいただいたものとか。
1 香りも高い橘を
積んだお船が今帰る
君の仰せをかしこみて
万里の海をまっしぐら
今帰る 田道間守 田道間守
2 おはさぬ君のみささぎに
泣いて帰らぬ真心よ
遠い国から積んで来た
花橘の香と共に
名は香る 田道間守 田道間守
田道間守は、お菓子の神様として、兵庫県、京都府など各地で祀られていますが、和歌山県海南市下津町にある橘本(きつもと)神社は、田道間守が「常世(とこよ)の国(※)」から持ち帰った橘の木を最初に植えた地と伝えられ、これが後にみかんになったとする伝承があります。お菓子がなかった時代、みかんが重宝されたのでしょう。
※日本神話の他界観をあらわす「海のはるか彼方の理想郷」
映画「星のフラメンコ」で西郷輝彦が・・
他にも、この曲にまつわる話がありました。この曲が映画「星のフラメンコ」(1966年/主演:西郷輝彦・松原智恵子 脚本:倉本 聰)に登場しているのだそうです。
主人公で学生 西条英司(西郷輝彦)と、結婚を前にしたチノ(松原智恵子)の兄妹が、台湾で生き別れた母を探しに行くというストーリーで、その手掛かりになったのが、この「田道間守の歌」で、音楽教師であったお母さんがよく口ずさんでいたのだそうです。劇中で西郷輝彦さんが、「♪星のフラメンコ」だけでなく、「♪赤とんぼ」や「田道間守の歌」を歌っているそうなので、私はまだ観ていませんが、気になる映画です。
「田道間守の歌」から亡き父を偲ぶ
実は、私の父も同じ和菓子屋でした。当時はこのような上品な?言い方ではなく、「饅頭屋」です。明治45年生まれの父は、和歌山県海草郡野上町(現 紀美野町)で生まれ育ち、祖父が饅頭屋をやっていて、早世したあと大阪に出て、饅頭作りの技を習得するために知人の饅頭屋に奉公したあと、小さな店を出したのです。
私を含む4人の子どもを饅頭作り一筋で、立派に育ててくれた親父を誇りに思っています。
この度、「田道間守の歌」を通じて、たまたま父と同業者で、和菓子協同組合で親交のあった藤井さんのご主人に出会うことができました。先日お宅にお邪魔して、橘本神社の手ぬぐいを写真に撮らせていただきました。少しの時間でしたが、在りし日の父のことが話題に出て、目頭が熱くなりました。
両親が眠る墓は和歌山県海南市にあります。墓参りのあと、「橘本神社」にも訪れてみたいと思っています。