童謡伝道マガジン「ふんふん」H・U・N企画

今夜のお話なあに

2018.3.4今夜のお話なあに

あいうえお雛様

あいうえお雛様

 朝一番に、あやちゃんは、お家のお雛様の所に行きました。
「おはようございます。」
「あれ? おかしいな? 変だなあ 今朝のお雛様。」

 あやちゃんは、園に行ってもお雛様のことを考えていました。すると、園長先生が、お雛様のお話をしてくださいました。
「一番上がお内裏様たち、雌雛と雄雛っていうの。その下に三人官女ね、それから五人囃子・・・。そしてこの方が右大臣。」
「あっ、そうだ。家のお雛様と、ここが違うわ。」
 あやちゃんは心の中でいいました。
「今朝は、たしか右大臣が向かって右にいらしたわ。」
 家に帰ったあやちゃんは、お雛様をすぐ見ました。そして右大臣と左大臣が入れ替わっていることに気づきました。
「おかしいな、お母さん、昨日、お雛様動かした?」
「いいや、動かしてないわよ。」
 あやちゃんは、その夜、お雛様をそっと見張っていることにしました。
 すると、きれいな音楽が流れました。
「えっ? 何の音?」
 時計を見ると、3時3分でした。
「あ~あ、疲れた。今日もずっと座りっぱなしだものね。」
「さあ、やっと、動けるぞ」
 お雛様たちは、段の上で伸びをしたり体操したり、そして、すーっと窓が開いて、飛んでいきました。

「お雛様が体操するなんて。それに、飛べるなんて。」
 あやちゃんは、目を丸くして驚いていました。
 お雛様たちは、空の旅を悠々と続けます。流れ星がすーっと流れ、きらきら輝いている他の星たちが挨拶しています。
 すると、右大臣が左大臣に話しかけました。
「左大臣殿、昨日は、どうしたのですか? 私の席に、あなたが座っておられたので、私は仕方なくあなたの席に座ったのですよ。もし、家の人に知られたらどうするのですか?」
「やあ、すみません。あまりに疲れたので、あなたの席に座ってしまったのですよ。」
 空の旅をしたお雛様は楽しそうな顔で戻ってきました。
 不思議なことにまた、窓がすーっと開いて次々とお雛様が戻ってこられました。そして何もなかったように、雛段は満席になりました。
 朝、あやちゃんはベッドの上で目が覚めました。
「お母さん、お雛様がね、飛んで行っちゃったんだよ。」
「何、寝ぼけているの、あやちゃんったら昨日はお雛様の前で寝ちゃったので、ベッドに連れてきたのよ。」
「??? 元に戻ってる。でも? よかったわ。これで安心して園に行けるわ。」
 あやちゃんが、家のお雛様を見ると、今朝のお雛様はおかしくはありませんでした。
「お母さん、ほらほら、右大臣様がむかって左で、左大臣様が右でしょ。」

文/もり・けん
1951年大阪市生まれ。
長年勤めた幼児教育出版社を
43歳で退社し、モンゴルに渡る。
自然に添うように生きる遊牧の暮らしを学び帰国。以後モンゴルの正しい理解と亡くしてしまった日本の心を取り戻せと訴え続ける。

日本の童謡の普及のため、作詞(新しい童謡の創作)、演奏(昔からある良い童謡の伝承)の両面で展開、全国各地を講演、ハーモニカによるコンサート活動は海外にも及びモンゴルを始めロシア、中国、北欧のフィンランドやスウェーデンなどの子供たちとも交流している。

文部科学省の財団法人すぎのこ文化振興財団の環境ミュージカル「緑の星」をはじめビクター「ふしぎの国のアリス」などを発表、絵本、童話、童謡など子供のための創作活動をしている。

現在、日本音楽著作権協会会員、日本童謡協会会員、詩人、ミュージカル作家、作詞家、ハーモニカ奏者。梅花女子大学、朝日カルチャーセンター、読売文化センター、ヤマハ音楽教室などの講師を勤める。