貧乏神は福の神
昔、お金持ちだった夫婦、今はとても貧乏になったある年の暮、大晦日というのに囲炉裏にくべるものもなく、お爺さんは床板をはがして、火をくべておりました。
すると奥のほうから、小さい爺さんが出てきました。
「お前は何者だ!」
と聞くと、
「わしは貧乏神。火にあたらせてくれんか」
といいました。
「貧乏神だと? おまえはいるからわしらは貧乏になったんだ!」
お爺さんは火のついた板で、貧乏神になぐりかかりました。
「ちょっと待て、わしは、おまえの嫁さんが片づけが大嫌いで、家中ちらかしとるから、わしはここで気に入って8年もすんでおる。もし、おまえさんが元のようにお金持ちになりたければ、嫁さんと別れなさい」
と。男はなるほどと思い、女房を追い出してしまいました。
それから貧乏神は、
「今夜は大晦日だから、お殿様がお通りになる。もし、おまえが貧乏から抜け出したいなら、お殿様のお籠めがけて、なぐりこめ」
としつこく勧めました。
男は貧乏神のいう通りにしてみようと思いました。
そして、殿様の行列がやって来ましたが、慌てて先頭の男をなぐってしまいました。
すると、ガチャンと音はして、あたりに銅貨が散らばりました。
列は何もなかったように、行ってしまいました。
貧乏神はいいました。
「どうして殿様をなぐらなかったんだ。年明けに、もう一度だけお籠が来るから、お殿様をなぐるんだぞ」
と。そして、貧乏神はどこかへ行ってしまいました。
さて、元日の晩になり、お殿様の行列がやって来たので、男は覚悟を決めて、お籠になぐりこみました。
すると、大きな音を立てて、お籠が壊れました。そして、中から大判、小判がザクザク出てきて、男は昔のようにお金持ちになりました。
実は、殿様の行列と思ったのは、大晦日と元日にだけ通る、お金の神様の行列だったということです。