童謡伝道マガジン「ふんふん」H・U・N企画

今夜のお話なあに

2019.12.8今夜のお話なあに

貧乏神は福の神

 昔、お金持ちだった夫婦、今はとても貧乏になったある年の暮、大晦日というのに囲炉裏にくべるものもなく、お爺さんは床板をはがして、火をくべておりました。
すると奥のほうから、小さい爺さんが出てきました。
「お前は何者だ!」
と聞くと、
「わしは貧乏神。火にあたらせてくれんか」
といいました。
「貧乏神だと? おまえはいるからわしらは貧乏になったんだ!」
 お爺さんは火のついた板で、貧乏神になぐりかかりました。
「ちょっと待て、わしは、おまえの嫁さんが片づけが大嫌いで、家中ちらかしとるから、わしはここで気に入って8年もすんでおる。もし、おまえさんが元のようにお金持ちになりたければ、嫁さんと別れなさい」
と。男はなるほどと思い、女房を追い出してしまいました。
 それから貧乏神は、
「今夜は大晦日だから、お殿様がお通りになる。もし、おまえが貧乏から抜け出したいなら、お殿様のお籠めがけて、なぐりこめ」
としつこく勧めました。
 男は貧乏神のいう通りにしてみようと思いました。
 そして、殿様の行列がやって来ましたが、慌てて先頭の男をなぐってしまいました。
すると、ガチャンと音はして、あたりに銅貨が散らばりました。
 列は何もなかったように、行ってしまいました。
 貧乏神はいいました。
「どうして殿様をなぐらなかったんだ。年明けに、もう一度だけお籠が来るから、お殿様をなぐるんだぞ」
と。そして、貧乏神はどこかへ行ってしまいました。
 さて、元日の晩になり、お殿様の行列がやって来たので、男は覚悟を決めて、お籠になぐりこみました。
 すると、大きな音を立てて、お籠が壊れました。そして、中から大判、小判がザクザク出てきて、男は昔のようにお金持ちになりました。
 実は、殿様の行列と思ったのは、大晦日と元日にだけ通る、お金の神様の行列だったということです。

文/もり・けん
1951年大阪市生まれ。
長年勤めた幼児教育出版社を
43歳で退社し、モンゴルに渡る。
自然に添うように生きる遊牧の暮らしを学び帰国。以後モンゴルの正しい理解と亡くしてしまった日本の心を取り戻せと訴え続ける。

日本の童謡の普及のため、作詞(新しい童謡の創作)、演奏(昔からある良い童謡の伝承)の両面で展開、全国各地を講演、ハーモニカによるコンサート活動は海外にも及びモンゴルを始めロシア、中国、北欧のフィンランドやスウェーデンなどの子供たちとも交流している。

文部科学省の財団法人すぎのこ文化振興財団の環境ミュージカル「緑の星」をはじめビクター「ふしぎの国のアリス」などを発表、絵本、童話、童謡など子供のための創作活動をしている。

現在、日本音楽著作権協会会員、日本童謡協会会員、詩人、ミュージカル作家、作詞家、ハーモニカ奏者。梅花女子大学、朝日カルチャーセンター、読売文化センター、ヤマハ音楽教室などの講師を勤める。