童謡伝道マガジン「ふんふん」H・U・N企画

今夜のお話なあに

2019.11.2今夜のお話なあに

かぜのおじさん

 むかしむかし、村のお堂の前で子どもたちが遊んでいると、知らないおじさんがやってきて言いました。
「栗や柿、梨や蜜柑がある所へ、行きたいかい?」
 子どもたちは、声をそろえて言いました。
「行きたい、行きたい!」
 おじさんはお尻から尻尾を出しました。
「みんな尻尾にまたがって、しっかりつかまるんだ」
 すると、ゴォーッと生温かい風が吹き、あっという間に栗や柿、梨や蜜柑がいっぱいある所に着きました。
「好きなだけ食べていいよ」
 おじさんはビューと生温かい風を起こして、木からたくさんの果物を落として飛んでいきました。子どもたちは、大喜びで食べ始めました。
 帰ろうとして子どもたちは、こまってしまいました。
「どうやって帰ったらいいの?」
「ぼくたちの村は、どこ?」
 子どもたちは、飛んで来たと思うほうに歩いていきましたが、やがて日が暮れてしまいました。
「家へ帰りたいよう」
 とぼとぼ歩くと、向こうに家の明りが見えました。
「家があるよ。わーい、家だ!」
 家の中には、おばあさんがいました。
「おや? 子どもたち、どこから来たの?」
「うん、知らないおじさんと風に乗って、栗や柿、梨や蜜柑をたくさん食わしてもらったの。でも、おじさんは僕らを置いて、飛んでいったんです」
「そうかい、その子は、おらの息子の南風だ。私のもう一人の息子の北風に家まで送らせるからな」
「北風よ。子どもたちを、家に連れて行ってやれ」
 北風は、南風と同じように、お尻から長い尻尾を出しました。子どもたちがまたがるとゴォーッと冷たい風が吹き、村のお堂まで送ってくれました。
「またおいで!」
というと、北風はゴォーッと冷たい風とともに帰って行きました。

文/もり・けん
1951年大阪市生まれ。
長年勤めた幼児教育出版社を
43歳で退社し、モンゴルに渡る。
自然に添うように生きる遊牧の暮らしを学び帰国。以後モンゴルの正しい理解と亡くしてしまった日本の心を取り戻せと訴え続ける。

日本の童謡の普及のため、作詞(新しい童謡の創作)、演奏(昔からある良い童謡の伝承)の両面で展開、全国各地を講演、ハーモニカによるコンサート活動は海外にも及びモンゴルを始めロシア、中国、北欧のフィンランドやスウェーデンなどの子供たちとも交流している。

文部科学省の財団法人すぎのこ文化振興財団の環境ミュージカル「緑の星」をはじめビクター「ふしぎの国のアリス」などを発表、絵本、童話、童謡など子供のための創作活動をしている。

現在、日本音楽著作権協会会員、日本童謡協会会員、詩人、ミュージカル作家、作詞家、ハーモニカ奏者。梅花女子大学、朝日カルチャーセンター、読売文化センター、ヤマハ音楽教室などの講師を勤める。