童謡伝道マガジン「ふんふん」H・U・N企画

今夜のお話なあに

2019.10.3今夜のお話なあに

カチカチ山

 むかしあるところに、お爺さんとお婆さんが仲良く小さな畑を守って、暮らしていました。
ある日、その大事な畑が狸に荒らされるので、お爺さんは罠を作って狸を捕まえ、縄で縛りました。
「今晩は狸汁じゃ」
と、台所の梁に吊るすと、畑仕事に出かけました。
 お婆さんは、お爺さんのために、土間でお餅をつくことにしました。すると、狸が言いました。
「お婆さん大変でしょう。もう悪いことはしませんから縄を解いてください。私にもお手伝いさせてください」
 かわいそうに思ったお婆さんが縄を解くと、狸は杵でお婆さんを殴り殺してしまったのです。
 お爺さんが畑から帰り、変わり果てたお婆さんを見て悲しんでいると、ずっと前にお婆さんと一緒に傷の手当をしてやった兎がやってきました。
 お爺さんの話を聞いた兎は、お婆さんの仇をとることにしました。
 そして、翌日、兎が狸の通り道でワラを集めていると、狸がやってきて
「手伝ってやろう」
と言いました。兎を集めたワラを狸は半分背負って歩き出しました。
 ずるがしこい狸は、兎が集めたワラで自分の家を建てようと考えていたのです。
兎は、狸の担いだワラに火打石で火をつけて、やけどをさせようと考えました。
カチカチカチカチ
「兎どん、何かカチカチと音がするんだが?」
 狸が尋ねると、兎は、
「それはカチカチ鳥が鳴いているんだ」
と言いました。
 狸が背負っているワラに火がまわり、ワラはあっという間に燃え上がって、狸は背中に大やけどを負い、家に逃げ帰りました
 翌日、兎の家に、狸が仕返しに来ると、漁師に変装していた兎が、
「今、兎どんは出かけているが、帰ってくるまで、わしと魚獲りをしないか。魚がいっぱい獲れるヨ」
と声をかけました。待っている間に魚獲りもいいなと、狸は思いました。
漁師に変装した兎が小さい木の舟に乗りました。魚がいっぱい積めるようにと、狸には大きな泥の舟を選ばせたのです。
そして、川に入り、真ん中あたりまで舟を漕ぎ出すと、狸の乗った泥の舟は水に溶け始めました。
「助けてくれ~」
狸が叫びましたが、兎は大きな声で言いました。
「お前はお婆さんを殺しただろう。お爺さんに代わってお前を仇討にしてやる」
大きな泥の舟は水に濡れ砕け、川に沈んで浮かんでくることはありませんでした。
こうして兎とお爺さんは、お婆さんの仇をとることができました。

文/もり・けん
1951年大阪市生まれ。
長年勤めた幼児教育出版社を
43歳で退社し、モンゴルに渡る。
自然に添うように生きる遊牧の暮らしを学び帰国。以後モンゴルの正しい理解と亡くしてしまった日本の心を取り戻せと訴え続ける。

日本の童謡の普及のため、作詞(新しい童謡の創作)、演奏(昔からある良い童謡の伝承)の両面で展開、全国各地を講演、ハーモニカによるコンサート活動は海外にも及びモンゴルを始めロシア、中国、北欧のフィンランドやスウェーデンなどの子供たちとも交流している。

文部科学省の財団法人すぎのこ文化振興財団の環境ミュージカル「緑の星」をはじめビクター「ふしぎの国のアリス」などを発表、絵本、童話、童謡など子供のための創作活動をしている。

現在、日本音楽著作権協会会員、日本童謡協会会員、詩人、ミュージカル作家、作詞家、ハーモニカ奏者。梅花女子大学、朝日カルチャーセンター、読売文化センター、ヤマハ音楽教室などの講師を勤める。