童謡伝道マガジン「ふんふん」H・U・N企画

今夜のお話なあに

2019.7.1今夜のお話なあに

犬飼七夕

 昔、犬を飼って猟をする若者が、美しい娘が池で水浴びをしている姿に心を奪われました。
「天女に違いない。天女なら羽衣を脱いでいるはず」
 犬飼いは天女の羽衣を探し出し、それを隠しました。
 しばらくして天女が池からあがると大切な羽衣がありません。羽衣がなければ天へ戻れません。困っている天女に犬飼いが言いました。
「お困りのようですが、どうしました?」
「はい、置いてあった羽衣がないのです」
「それなら羽衣が見つかるまで、私の家にいればいい」
 天女は、犬飼いの家に行き、犬飼いのお嫁さんになりました。
 二人が仲良く暮らして、数年経ったある日、天女が部屋の戸袋の奥から隠されていた羽衣を見ました。
「えっ、 これは? ひどい!」
 天女は羽衣を身につけると、空に舞い上がりました。戻った犬飼いは、
「待ってくれ!」
と、叫びましたが、天女は何も言わずに空へ上っていきました。
 天女がいなくなって、犬飼いは毎日、天女のことを思っていました。

 犬飼いは占師に相談すると、占師は言いました。
「連れ戻すことは出来ない。お前の方から訪ねて行けばいい。天女の所へ行くには、一晩で百足のわらじを作り、そのわらじを土に埋めて、その上にヘチマの種をまいてごらん」
 犬飼いは、さっそく家に帰るとわらじを作り始めました。
(妻よ、待っていろよ。必ず迎えに行くからな)
 犬飼いは休むことなく、わらじを作り続けました。夜明けには、九十九足のわらじが出来ました。
「九十九足しかないが、百足とは、あまり変わるまい」
 そして占師の言う通り、わらじを土に埋めてヘチマの種をまくと、つるがドンドン伸びて、今にも天に届きそうになりました。
 犬飼いは犬と一緒に、ヘチマのつるを登りました。もう少しだ。あと少しで天に届くところで、ヘチマのつるは伸びるのを止めました。わらじが一足、足りなかったからです。
 犬飼いがくやしがっていると、後からついて来た犬が犬飼いの頭を飛び越えて、天へ飛び上がったのです。犬は、犬飼いにお尻を向けると、
「それ、だんなさま、捕まって!」
と、長い尻尾をたらしました。
「ありがとう」
 犬飼いは犬の尻尾をつかむと、何とか天にたどり着きました。
 そして、犬飼いは天女に詫びました。
 その後、二人は元通りの夫婦となり、犬飼いは彦星に、天女は織姫になりました。

文/もり・けん
1951年大阪市生まれ。
長年勤めた幼児教育出版社を
43歳で退社し、モンゴルに渡る。
自然に添うように生きる遊牧の暮らしを学び帰国。以後モンゴルの正しい理解と亡くしてしまった日本の心を取り戻せと訴え続ける。

日本の童謡の普及のため、作詞(新しい童謡の創作)、演奏(昔からある良い童謡の伝承)の両面で展開、全国各地を講演、ハーモニカによるコンサート活動は海外にも及びモンゴルを始めロシア、中国、北欧のフィンランドやスウェーデンなどの子供たちとも交流している。

文部科学省の財団法人すぎのこ文化振興財団の環境ミュージカル「緑の星」をはじめビクター「ふしぎの国のアリス」などを発表、絵本、童話、童謡など子供のための創作活動をしている。

現在、日本音楽著作権協会会員、日本童謡協会会員、詩人、ミュージカル作家、作詞家、ハーモニカ奏者。梅花女子大学、朝日カルチャーセンター、読売文化センター、ヤマハ音楽教室などの講師を勤める。