犬飼七夕
昔、犬を飼って猟をする若者が、美しい娘が池で水浴びをしている姿に心を奪われました。
「天女に違いない。天女なら羽衣を脱いでいるはず」
犬飼いは天女の羽衣を探し出し、それを隠しました。
しばらくして天女が池からあがると大切な羽衣がありません。羽衣がなければ天へ戻れません。困っている天女に犬飼いが言いました。
「お困りのようですが、どうしました?」
「はい、置いてあった羽衣がないのです」
「それなら羽衣が見つかるまで、私の家にいればいい」
天女は、犬飼いの家に行き、犬飼いのお嫁さんになりました。
二人が仲良く暮らして、数年経ったある日、天女が部屋の戸袋の奥から隠されていた羽衣を見ました。
「えっ、 これは? ひどい!」
天女は羽衣を身につけると、空に舞い上がりました。戻った犬飼いは、
「待ってくれ!」
と、叫びましたが、天女は何も言わずに空へ上っていきました。
天女がいなくなって、犬飼いは毎日、天女のことを思っていました。
犬飼いは占師に相談すると、占師は言いました。
「連れ戻すことは出来ない。お前の方から訪ねて行けばいい。天女の所へ行くには、一晩で百足のわらじを作り、そのわらじを土に埋めて、その上にヘチマの種をまいてごらん」
犬飼いは、さっそく家に帰るとわらじを作り始めました。
(妻よ、待っていろよ。必ず迎えに行くからな)
犬飼いは休むことなく、わらじを作り続けました。夜明けには、九十九足のわらじが出来ました。
「九十九足しかないが、百足とは、あまり変わるまい」
そして占師の言う通り、わらじを土に埋めてヘチマの種をまくと、つるがドンドン伸びて、今にも天に届きそうになりました。
犬飼いは犬と一緒に、ヘチマのつるを登りました。もう少しだ。あと少しで天に届くところで、ヘチマのつるは伸びるのを止めました。わらじが一足、足りなかったからです。
犬飼いがくやしがっていると、後からついて来た犬が犬飼いの頭を飛び越えて、天へ飛び上がったのです。犬は、犬飼いにお尻を向けると、
「それ、だんなさま、捕まって!」
と、長い尻尾をたらしました。
「ありがとう」
犬飼いは犬の尻尾をつかむと、何とか天にたどり着きました。
そして、犬飼いは天女に詫びました。
その後、二人は元通りの夫婦となり、犬飼いは彦星に、天女は織姫になりました。