三枚のお札
寺の小僧さんが言うた。
「和尚さん、ほおずきを探しに山に行きたいのです」
「じゃが、怖い山婆が出るぞ」
小僧さんが、どうしても行きたいと言うので、和尚さんはお札を三枚渡した。
「もし、山婆が出たらこのお札を使うがいい。困った時に役に立つじゃろ」
小僧さんがほおずきを採ると山婆が現れた。
「小僧、ほおずきは家にどっさりある。ついて来いや」
小僧さんは、何も考えずついて行った。山婆は家へ着くなり、小僧さんを縛った。
「小僧、食ってやるから待ってろや」
小僧さんは恐ろしさのあまり、がたがたふるえた。山婆は牙をむいて大きな口を開けた。
小僧さんはとっさに、
「ウンチがしたい!」
と言うた。
「それは臭くてまずいな。仕方ない、便所で出して来い」
山婆は、小僧さんの腰に縄をつけて、便所に行かせた。小僧さんは、縄をほどき、お札を柱に結んだ。
「お札さん。代わりに、返事をしてくれ」
そう言って、窓から逃げ出した。
「小僧、まだか?」
「もう少し、もう少し」
「小僧、まだか?」
「もう少し、もう少し」
「もう我慢できん」
山婆は縄を引いた。
ガラガッシャーン。
便所の中は空っぽになっていた。
「よくもだましたな。待てー!」
山婆は、小僧を追いかけて行く。
「待てー、待てー」
小僧さんは、二枚目の札を出すと、
「川になれ!」
と、後ろに投げた。
すると、川が現れ、山婆は流されそうになった。山婆はガブガブと水を飲んでしまった。
「待てー、待てー」
小僧さんは、三枚目の札を出すと、
「山火事になれ!」
と、投げた。
山火事は、山婆を通せんぼしたが、山婆は、さっき飲んだ川の水をばーっとはき出し、山火事を消した。
「待てー、待てー」
山婆は、また追いかけてくる。小僧さんは命からがら寺にたどり着くと、和尚さんに助けを求めた。
「だから、やめておけと言ったのじゃ」
「わしの頼みを聞いてくれたら、小僧をおまえにやるが、どうじゃ」
「いいだろう。何をすればいい?」
「聞くところによると、お前は、山のように大きくなることも、豆粒のように小さくなることもできるそうじゃな」
「ああ、そうだ」
「よし、では豆粒になってくれや」
「おやすいご用」
山婆は、豆粒のようになった。
和尚さんはすかさず、山婆を餅の中に丸め込むと、ごくん。一口で飲み込んでしまった。
「ざっと、こんなもんじゃい」