童謡伝道マガジン「ふんふん」H・U・N企画

今夜のお話なあに

2021.2.6今夜のお話なあに

もり・けん おうさまシリーズ④あいさつがきらいな王様

作 もり・けん
絵 ハラアツシ/北村信明

「王様、おはようございます」
「王様、こんにちは」
「王様、こんばんは」
「王様、おやすみなさい」
 王様は、朝起きてから、夜寝るまで、あいさつ、あいさつ、あいさつのされどおしです。

「ええい、うるさい。いつもと同じあいさつなんか、しなくてもいいのだ!」
 とうとう、王様はお触れを出しました。

今日からこの国では、あいさつを禁止する
命令にそむいたものは、牢屋に入れる

 さあ、国中が大騒ぎです。
 パン屋さんはお客さんに、
「おはようございます」
とうっかりいって、つかまってしまいました。
昼、おとなりのおばさんに、
「こんにちは」
といった子どもも、牢屋に入れられてしまいました。

 あいさつができなくなったこの国は、いつのまにか、暗くてさびしい国になってしまいました。
 あいさつを禁止した王様も、どうしたわけか、日に日に元気がなくなり、暗い気持ちになっていきました。

 そんなある日、どこからか大勢の歌声が聞こえてきました。
 王様は、その歌声のほうに歩きだしていました。なんと、それは、お城の中にある牢屋のほうから聞こえてくるではありませんか?

♪地球がくるんとまわったら
おはようって朝が来る
お日様連れて朝が来る
おはよう おはよう やあおはよう

 それは、とても楽しそうな歌声でした。王様は、聞いているうちに、一緒に歌いたくなりました。

「ううん。いかん、いかん。わしはあいさつが嫌いじゃった。あいさつの歌をうたうなんてとんでもない」
 王様は、いそいで牢屋のそばから逃げ出しました。
「ううむ、おかしい。何かおかしい」
 王様は考え込んでしまいました。

 何日かたった朝、王様はばったり出会った家来についうっかり、
「やあ、おはよう」
と、いってしまいました。
 家来は、あいさつのきらいな王様が、あいさつをしたことにびっくりしました。
 王様は、あいさつをしたおかげで、今までの暗くて元気のなかったのが、いっぺんにふっとんだことに驚きました。

「そうか、あいさつをするというのは、こんなに気持ちのいいことだったのか」
 王様は、自分がまちがっていたことをあやまり、お触れもやめました。それどころか、それから、王様は自分から進んであいさつをするようになったのです。

 おかげで、この国は、あいさつが飛びかって、ずっとずっと、笑い声のあふれる楽しい国になりました。

* 私が、今から37年前、32歳の時に作った絵本。当時、私はひかりのくにの編集部に居ました。この作品は、みなさんに一番読んでもらっている、私のお話の中では一番有名なお話です。なぜなら、このお話が、小学校の「道徳」の本に採用されているからです。日本国中の小学校で、私のお話であいさつの大切さを学んでくれています。
現在も、光村図書、日本文芸出版の道徳教科書小学二年用に掲載されています。

文/もり・けん
1951年大阪市生まれ。
長年勤めた幼児教育出版社を
43歳で退社し、モンゴルに渡る。
自然に添うように生きる遊牧の暮らしを学び帰国。以後モンゴルの正しい理解と亡くしてしまった日本の心を取り戻せと訴え続ける。

日本の童謡の普及のため、作詞(新しい童謡の創作)、演奏(昔からある良い童謡の伝承)の両面で展開、全国各地を講演、ハーモニカによるコンサート活動は海外にも及びモンゴルを始めロシア、中国、北欧のフィンランドやスウェーデンなどの子供たちとも交流している。

文部科学省の財団法人すぎのこ文化振興財団の環境ミュージカル「緑の星」をはじめビクター「ふしぎの国のアリス」などを発表、絵本、童話、童謡など子供のための創作活動をしている。

現在、日本音楽著作権協会会員、日本童謡協会会員、詩人、ミュージカル作家、作詞家、ハーモニカ奏者。梅花女子大学、朝日カルチャーセンター、読売文化センター、ヤマハ音楽教室などの講師を勤める。