もり・けん おうさまシリーズ④あいさつがきらいな王様
作 もり・けん
絵 ハラアツシ/北村信明
「王様、おはようございます」
「王様、こんにちは」
「王様、こんばんは」
「王様、おやすみなさい」
王様は、朝起きてから、夜寝るまで、あいさつ、あいさつ、あいさつのされどおしです。
「ええい、うるさい。いつもと同じあいさつなんか、しなくてもいいのだ!」
とうとう、王様はお触れを出しました。
今日からこの国では、あいさつを禁止する
命令にそむいたものは、牢屋に入れる
さあ、国中が大騒ぎです。
パン屋さんはお客さんに、
「おはようございます」
とうっかりいって、つかまってしまいました。
昼、おとなりのおばさんに、
「こんにちは」
といった子どもも、牢屋に入れられてしまいました。
あいさつができなくなったこの国は、いつのまにか、暗くてさびしい国になってしまいました。
あいさつを禁止した王様も、どうしたわけか、日に日に元気がなくなり、暗い気持ちになっていきました。
そんなある日、どこからか大勢の歌声が聞こえてきました。
王様は、その歌声のほうに歩きだしていました。なんと、それは、お城の中にある牢屋のほうから聞こえてくるではありませんか?
♪地球がくるんとまわったら
おはようって朝が来る
お日様連れて朝が来る
おはよう おはよう やあおはよう
それは、とても楽しそうな歌声でした。王様は、聞いているうちに、一緒に歌いたくなりました。
「ううん。いかん、いかん。わしはあいさつが嫌いじゃった。あいさつの歌をうたうなんてとんでもない」
王様は、いそいで牢屋のそばから逃げ出しました。
「ううむ、おかしい。何かおかしい」
王様は考え込んでしまいました。
何日かたった朝、王様はばったり出会った家来についうっかり、
「やあ、おはよう」
と、いってしまいました。
家来は、あいさつのきらいな王様が、あいさつをしたことにびっくりしました。
王様は、あいさつをしたおかげで、今までの暗くて元気のなかったのが、いっぺんにふっとんだことに驚きました。
「そうか、あいさつをするというのは、こんなに気持ちのいいことだったのか」
王様は、自分がまちがっていたことをあやまり、お触れもやめました。それどころか、それから、王様は自分から進んであいさつをするようになったのです。
おかげで、この国は、あいさつが飛びかって、ずっとずっと、笑い声のあふれる楽しい国になりました。
* 私が、今から37年前、32歳の時に作った絵本。当時、私はひかりのくにの編集部に居ました。この作品は、みなさんに一番読んでもらっている、私のお話の中では一番有名なお話です。なぜなら、このお話が、小学校の「道徳」の本に採用されているからです。日本国中の小学校で、私のお話であいさつの大切さを学んでくれています。
現在も、光村図書、日本文芸出版の道徳教科書小学二年用に掲載されています。