童謡伝道マガジン「ふんふん」H・U・N企画

今夜のお話なあに

2020.3.1今夜のお話なあに

いなばのしろうさぎ

 出雲の国に、だいこくさまという神様がいらっしゃいました。
その神様はおおぜいの兄弟があり、その中でもいちばん心のやさしい神様でした。
 兄弟の神様たちは、因幡の国に八上比売(やかみひめ)という美しい姫がいるという噂を聞き、みんなで会いに行こうと決められました。
 だいこくさまは、兄弟たちの家来のように大きな袋を背負わされ、一番後からついていくことになりました。
 兄弟たちが因幡の国の気多の岬に通りかかったとき、体の皮を剥かれて泣いている一匹のうさぎを見つけました。兄弟たちはそのうさぎに意地悪をして、海水を浴びて風にあたるとよいと嘘をつきました。
 そのうさぎはだまされていることも知らずに、言われるまま海に飛び込み、風当たりのよい丘の上で風に吹かれていました。そうしていると、海水が乾いて傷がもっとひどくヒリヒリ痛みだしました。
 前よりも苦しくなって泣いているうさぎのところに、後からついてきただいこくさまが通りかかりました。だいこくさまはそのうさぎを見て、どうして泣いているのか、わけを聞きました。
 そのうさぎは言いました。
 わたしは隠岐の島に住んでいたのですが、一度この国に渡ってみたいと思って、泳いで渡る方法を考えていました。すると、そこにワニ(サメ)がきたので、わたしは彼らを利用しようと考えました。
 わたしはワニに、自分の仲間とどっちが多いかくらべっこしようと、話をもちかけました。
 ワニたちは、わたしの言うとおりに背中を並べはじめて、わたしは数を数えるふりをしながら、向こうの岸まで渡っていきました。
 しかし、もう少しというところで、わたしはうまくだませたことが嬉しくなって、つい、だましたことを言ってしまい、ワニを怒らせてしまいました。
 そのしかえしに、わたしはワニに皮を剥かれてしまったのです。
 それから、わたしが痛くて泣いていると、先ほど、ここを通られた神様たちが、わたしに海に浸かって風で乾かすとよいとおっしゃったので、そうしたら前よりももっと痛くなったのです。
 だいこくさまはそれを聞いて、そのうさぎに言いました。
 かわいそうに、すぐに真水で体を洗い、それから蒲(がま)の花を摘んできて、その上に寝転ぶといい。
 そういわれたうさぎは、今度は川に浸かり、集めた蒲の花の上に、静かに寝転びました。
 そうすると、うさぎの体から毛が生えはじめ、すっかり元のしろうさぎに戻りました。
 そのあと、ずい分遅れてだいこくさまは因幡の国に着かれましたが、八上比売(やかみひめ)が求められたのは、だいこくさまでした。

文/もり・けん
1951年大阪市生まれ。
長年勤めた幼児教育出版社を
43歳で退社し、モンゴルに渡る。
自然に添うように生きる遊牧の暮らしを学び帰国。以後モンゴルの正しい理解と亡くしてしまった日本の心を取り戻せと訴え続ける。

日本の童謡の普及のため、作詞(新しい童謡の創作)、演奏(昔からある良い童謡の伝承)の両面で展開、全国各地を講演、ハーモニカによるコンサート活動は海外にも及びモンゴルを始めロシア、中国、北欧のフィンランドやスウェーデンなどの子供たちとも交流している。

文部科学省の財団法人すぎのこ文化振興財団の環境ミュージカル「緑の星」をはじめビクター「ふしぎの国のアリス」などを発表、絵本、童話、童謡など子供のための創作活動をしている。

現在、日本音楽著作権協会会員、日本童謡協会会員、詩人、ミュージカル作家、作詞家、ハーモニカ奏者。梅花女子大学、朝日カルチャーセンター、読売文化センター、ヤマハ音楽教室などの講師を勤める。