童謡伝道マガジン「ふんふん」H・U・N企画

今夜のお話なあに

2018.12.2今夜のお話なあに

鶴の恩返し

 昔々のことです。たいそうよく働く若者が仕事を終えて、家の前の畑で、羽根に矢が刺さった鶴を見つけました。
 若者は、その鶴をていねいに手当てしてから、放してやりました。鶴は礼を言うようにコーコーコーと鳴きながら、山の向こうへ飛んでいきました。
 何日か経った夜のことです。若者の家に若い娘が訪ねてきて言いました。
「道に迷ってしまい、困っています。どうか一晩、泊めていただけませんでしょうか?」
「それはお困りでしょう。男の一人住まいで何もできないが、どうぞおはいりなさい」
 あくる日、雪がやむと娘が、
「すっとここにいたい」
と言うので、二人は一緒に暮らしはじめました。

 ある日のこと、娘は、
「機(はた)が織りたい」
と言うので、隣の部屋に機織り機を用意しますと、
「私が機を織ってっているところは決してのぞかないでください」
と言いました。
 そして、娘が三日間、部屋にこもって織った布は、銀色に光る美しい布でした。
 若者は娘の言う通り町に行って布を売ると、とても高く売れました。
 家に帰ると、娘はまた、
「のぞかないでください」
と言い、部屋にはいっていきました。
 次に織り上がった布は、お殿様がたいそう高い金額で買ってくれ、
「次はもっと、お金を出すぞ」
と言ってくれました。
 若者は、いい暮らしができると思うと、うれしくて、
「もっと織ってくれ」
と、つい言ってしまいました。
 娘は、
「もう一度だけです」
と言って部屋にはいり、機を織り始めました。
 若者は娘がひどくやせて見え、やつれているように思えました。若者は部屋の前に行き、
「もう、織るのをやめてくれ!」
と頼みました。
 何度も言いましたが、娘の返事がありません。
若者はとうとう約束を忘れて戸を開けてしまったのです。
 そこにいたのは一羽の鶴でした。鶴が、自分の白い羽根を抜いて、布を織っています。
「私は、いつか助けていただいた鶴です。ご恩返しに来ました。でも、私の本当の姿を見られたらもう一緒にはいられません」

「ゆるしておくれ、どうか一緒にいれおくれ」
と若者は言いました。
 しかし、娘は悲しそうに首を横に振り、表に出ると森のほうへ飛んでいってしまいました。
 娘は二度と若者のところには帰ってきませんでした。

文/もり・けん
1951年大阪市生まれ。
長年勤めた幼児教育出版社を
43歳で退社し、モンゴルに渡る。
自然に添うように生きる遊牧の暮らしを学び帰国。以後モンゴルの正しい理解と亡くしてしまった日本の心を取り戻せと訴え続ける。

日本の童謡の普及のため、作詞(新しい童謡の創作)、演奏(昔からある良い童謡の伝承)の両面で展開、全国各地を講演、ハーモニカによるコンサート活動は海外にも及びモンゴルを始めロシア、中国、北欧のフィンランドやスウェーデンなどの子供たちとも交流している。

文部科学省の財団法人すぎのこ文化振興財団の環境ミュージカル「緑の星」をはじめビクター「ふしぎの国のアリス」などを発表、絵本、童話、童謡など子供のための創作活動をしている。

現在、日本音楽著作権協会会員、日本童謡協会会員、詩人、ミュージカル作家、作詞家、ハーモニカ奏者。梅花女子大学、朝日カルチャーセンター、読売文化センター、ヤマハ音楽教室などの講師を勤める。