白い馬の物語
モンゴルの遊牧民の一日は日が昇ると始まります。ムンフたち、子どもの仕事は、朝の水汲みや、乳搾りです。ムンフはミルク茶とチーズ、揚げパンの朝ご飯を済ませると、羊と山羊を連れて草原に出かけて行きました。大好きな白い馬は友達、いつでもどこでも一緒です。
遊牧民の楽しみは、年に一度のナーダムというお祭りです。そこでは、相撲と弓と競馬が行われます。
ある日、王様がお触れを出しました。
「競馬に優勝した少年は、大きくなったら、私の娘と結婚できる。王様」
ムンフは、白い馬と一緒に走ることにしました。ムンフは白い馬を立派に育てました。
いよいよナーダムの日。競馬が始まりました。ムンフと白い馬は、走って走って、走って走り抜きました。そして、たくさんのライバルを倒して優勝したのです。
ところが王様は、ムンフがあまりにみすぼらしい格好でしたので、
「姫との結婚は取りやめだ。お金をやるから白い馬を置いて帰れ」
と言いました。
「僕は結婚なんかしたくない。馬も売らない」
ムンフは言いました。
「生意気な!」
王様は白い馬を取り上げ、ムンフをたたきのめして追い出してしまいました。
白い馬を手に入れた王様は、みんなに見せびらかし、白い馬に乗ろうとすると、馬は精いっぱいいなないて、王様を振り落とし逃げ出しました。
「生意気な馬だ。者ども、矢を射て、殺してしまえ!」
王様の家来に矢を射かけられながら、白い馬はムンフの所に戻りました。しかし、あまりにたくさんの矢を受けたのでムンフの腕の中で死んでしまいました。
ムンフは泣きました。白い馬のために一晩中、泣きました。その夜、夢の中に白い馬が現れて言いました。
「ムンフ、悲しまないで。私の心は生きています。私の体を使って、楽器を作ってください。そうすれば、いつもあなたのそばにいられます」
ムンフは、大好きだった白い馬の亡骸(なきがら)で、楽器を作ることにしました。元は、馬の頭の骨を使った琴というので、馬頭琴と呼ばれ、遊牧民の間に広まりました。
後に、木で作るようになった馬頭琴は、白い馬の心を歌いました。人々は嬉しい時、悲しい時、馬頭琴を弾いて歌い、明日に希望をつなぎます。
馬頭琴は、遊牧民の心を歌う大切な楽器なのです。