童謡伝道マガジン「ふんふん」H・U・N企画

今夜のお話なあに

2019.9.5今夜のお話なあに

かぐや姫

『竹取物語』より 天道から来たお姫様

 お爺さんが竹林にでかけると、光り輝く竹がありました。そして、中から可愛らしい小さな女の子が出て来たので連れ帰り、お婆さんと相談して自分たちの子として育てることにしました。
 それから、竹の中に金を見つける日が続き、夫婦は豊かになっていきました。
 女の子は大きくなり、三か月ほどで美しい姫となりました。二人はその子を「かぐや姫」と名づけました。
 世間の男は、かぐや姫と結婚したいと、竹取のお爺さんの家の周りに集まり、最後に残ったのは五人の公達でした。五人の公達を見て、お爺さんはかぐや姫に、
「大切なわが子よ、私も七十となり、今日とも明日とも知れない。この世の男女は結婚するもので、お前も結婚のないままいるわけにはいかない」
というと、かぐや姫は、
「いくら立派な方々であっても、深い志を知らないままに結婚できません。私のいう物を持って来た人にお仕えいたしましょう」
といいました。
 その宝は、話にしか聞かない珍しい宝ばかりで、手に入れるのは困難でした。五人は偽物を持ってきたり、偽物を作らせたり、商人から偽物を買わされたものを持ち込んだり、結局、かぐや姫が出した難題をこなした者は誰一人としていませんでした。
 その様子が帝にも伝わり、帝は姫に会いたいと思い、使いを出し、かぐや姫と会いたいと迫りましたが、再三の説得にも関わらず、ことごとく拒絶されました。
 このことを帝に伝えると、帝は一旦は思いとどまったものの、やはり会いたくなり、お爺さんを呼び出して、
「姫を差し出せば官位をやる」
といいました。喜ぶお爺さんの取りなしにもかかわらず、かぐや姫は、
「帝がお召しになって仰られたとしても、おそれ多いとも思いません」
といい、姿を見せようともしません。
 帝が狩りに行くついでに不意をつき、かぐや姫の家に入ると、光に満ちて清らかに座っている姫を見ました。帝は初めて見たかぐや姫を美しく思い、神輿を寄せて連れて行こうとしましたが、姫は一瞬のうちに姿(実体)を影(光)としました。
 本当に地上の人間ではないと帝は思いましたが、より一層すばらしい女だと思う気持ちが抑えがたく、帝は、魂をその場に留め置いている心地で、かぐや姫を残して帰りました。かぐや姫のもとにだけ、手紙を書いて文通していました。
 帝と和歌を遣り取りするようになって、三年の月日が経った頃、かぐや姫は月を見て物思いにふけるようになりました。
 八月の満月が近づくにつれ、姫は激しく泣くようになり、お爺さんが問うと、
「自分はこの国の人ではなく、月の都のものです。十五日に帰らねばならない。ほんの少しの間ということであの国からやって来たが、この国で長い年月を過ごしてしまった。それでも自分の心のままにならず、お暇を申し上げる」
といいました。
 それを帝が知り、翁の意を受けて、勇ましい軍勢を送ることとなりました。その十五日には、各役所に命じ、勅使として中将を指名し、二千人を竹取の家に派遣。家に行って、築地の上に千人、建物の上に千人、家の使用人がとても多かったのと合わせて、空いている隙もなく守らせ、お婆さんは部屋でかぐや姫を抱きかかえ、お爺さんも錠を下ろして戸口にいました。かぐや姫は、
「私を閉じ込めて、守り戦う準備をしていても、あの国の人に対して戦うことはできません。弓矢で射ることもできません。このように閉じ込めていても、あの国の人が来たら、みな開いてしまいます。戦い合おうとしても、あの国の人が来たら、勇猛な心を持つ人も、まさかいないでしょう。お爺さま、お婆さまのこれまでのご愛情をわきまえずにお別れしようとすることが、残念でございます。両親に対するお世話を、僅かもいたさずに、帰っていく道中も安らかにはなりますまい。あの都の人は、とても清らかで美しく、老いることもないのです。もの思いもありません。そのような所へ行くことも、嬉しいとも存じません」
 そして、子の刻(真夜中頃)、家の周りが昼のように光りました。天空から人が雲に乗って降りて来て、地面から五尺(約1.5メートル)くらい上った所に立ち並んでいる。
地上の人々の心は、得体の知れない存在に襲われるようで、戦い合おうという気もありません。何とか心を奮って、弓矢を構えようとしても、手に力もなくなってしまいます。気丈な者が堪えて射ようとしますが、矢はあらぬ方へ飛んでいき、ただ茫然とお互い見つめ合っているばかり。
 王と思われる人が、
「爺、出て参れ」
というと、お爺さんもひれ伏していました。
「爺よ、幼き者よ。少しばかりお前が善行を作ったから助けたと、僅かばかりの間ということで姫を下ろしたところ、長い年月の間に多くの黄金を賜って、お前たちは金持ちになったのだ。かぐや姫は罪をお作りになったので、このように賤しいお前の元にしばらくいらっしゃったのだ。罪の期限は過ぎた。早くお出し申しあげよ」
 屋根の上に飛ぶ車を近づけて、
「さあ、かぐや姫、お乗りなさい」
というと、閉め切っていた戸や格子が即座に開いていく。お婆さんが抱きかかえて座っていたかぐや姫は、するりと抜けて天に吸い込まれました。お爺さんとお婆さんは泣き伏して見送るだけでした。

*今月のお話は、『竹取物語』を大人のためにかきました。これを踏まえて、お子さんに話してあげてください。

文/もり・けん
1951年大阪市生まれ。
長年勤めた幼児教育出版社を
43歳で退社し、モンゴルに渡る。
自然に添うように生きる遊牧の暮らしを学び帰国。以後モンゴルの正しい理解と亡くしてしまった日本の心を取り戻せと訴え続ける。

日本の童謡の普及のため、作詞(新しい童謡の創作)、演奏(昔からある良い童謡の伝承)の両面で展開、全国各地を講演、ハーモニカによるコンサート活動は海外にも及びモンゴルを始めロシア、中国、北欧のフィンランドやスウェーデンなどの子供たちとも交流している。

文部科学省の財団法人すぎのこ文化振興財団の環境ミュージカル「緑の星」をはじめビクター「ふしぎの国のアリス」などを発表、絵本、童話、童謡など子供のための創作活動をしている。

現在、日本音楽著作権協会会員、日本童謡協会会員、詩人、ミュージカル作家、作詞家、ハーモニカ奏者。梅花女子大学、朝日カルチャーセンター、読売文化センター、ヤマハ音楽教室などの講師を勤める。