かちかち山
昔、ある山の里に、お爺さんとお婆さんが暮らしていました。山の中のことですから、そんなに広い土地はありません。あちこちに小さな畑を作って世話をしていました。小さな畑には、芋や大根、菜っ葉や豆などを作って育てていました。
ある朝のこと、お爺さんが畑に水やりをしようと思って表に出ると、畑や無茶苦茶に荒らされていたのです。せっかくまいた種をほじくりだしたり、芋を掘りだしてありました。
「誰がこんなひどいことをしたんじゃ」
お婆さんに話すと、
「それはきっと狸の仕業でしょう。よくこの辺りをちょろちょろと走り去るのを見たことがあります」
お爺さんは罠を仕掛けて、狸を捕まえました。
「お婆さんや、この狸は、狸汁にしておくれ」
というと、また他の畑に出かけていきました。
捕まった狸は、お婆さんに頼みました。
「もう悪さはしないからこの縄を解いてください。何でもお手伝いします」
お婆さんは、狸汁にするのはかわいそうじゃと、縄を解いてやりました。すると、狸は杵でお婆さんを殴って逃げてしまったのです。
お婆さんは、頭から血を流して倒れ、そのまま息を引き取りました。帰ってきたお爺さんは、お婆さんを助け起こしましたが、もう息をしていませんでした。
「なんということだ。あの狸は許すことはできん」
お爺さんが泣いていると、仲のいい兎がやってきました。
兎は話を聞いて、
「よし、俺が仇をとってやる」
と狸のところへ出かけていきました。
「やあ、狸さん、柴刈りに行くから一緒に行かんか? 柴は高く売れてお金が儲かるぞ」
狸は、兎と一緒に柴を刈りに行きました。帰り道で、兎は狸の後ろから火打石を「かちかち」と鳴らしました。
「兎さん、かちかちと音がするが、何だろう?」
「ここはかちかち山だからかちかち鳴るんだよ」
しばらく歩いていくと、背中の方でぼうぼうと音がします。
「兎さん、ぼうぼうと音がするが、何だろう?」
「それは、ぼうぼう鳥が鳴いているから、ぼうぼうと音がするんですよ」
そうしているうちに、背中の芝に火がついて燃え上がりました。
「あちちちち、あちちちち」
狸の背中は大やけどを負いました。
少しして、兎は狸のお見舞いに行きました。
「狸さん、やけどによく効く薬を持ってきてあげたよ」
そういって、とうがらし味噌を渡しました。兎が帰ると狸はやけどのところにそれを塗りました。
「いたたたたた」
狸は転がり痛がりました。
狸のやけどが治ると、兎は木の船と、一回り大きな泥の船を用意して狸を釣りに誘いました。
「狸さん、魚がたくさん積めるから大きいほうの船に乗ったほうがいいよ」
狸が泥の船を選んだので、兎は木の船で池の真ん中までやってくると、泥の船は周りから溶けていき、沈み始めたのです。
「兎さん助けてくれ!」
兎は、艪で狸を殴り、こういいました。
「狸さん、あんたがお婆さんにしたようにしてあげましょう」
狸の乗った船は沈み、狸は溺れてしまいました。兎はお婆さんの仇を討ちました。