一寸法師
大阪の昔話 一寸法師 (御伽草子より)
昔、摂津の国、難波の里に夫婦が暮らしていました。夫婦には四十になっても子がありませんでしたので、住吉大明神に参り、祈りますと男の子が授かりました。
しかし、その子は生まれたとき、背が一寸しかありませんでしたので、名を一寸法師としました。
一寸法師は十二になりましたが、背はそのままでした。そんなある日、一寸法師は都へ行くと言いました。針をもらって刀にし、鞘を麦藁で作ってお椀を舟に、箸を櫂にすると、住吉の浦より、出発しました。お椀の舟はぎっちらこ、難波の浦を出て淀川を上っていきました。
指に足りない 一寸法師
小さな体に 大きな望み
お椀の舟に 箸の櫂
京へはるばる 上り行く
鳥羽の津に着いた一寸法師は、そこに舟を乗り捨てて都に上りました。都は、見るものすべて珍しく、四条五条の賑わいは驚くばかりでした。
一寸法師は三条の大臣のお屋敷に着きました。
「物申さん」
声はしますが、人影はありません。一寸法師は、
「人じゃ、踏んではならぬぞ」
と言いました。大臣は、
「これは、おもしろい者だ。小さいのに、勇気のあるやつだ」
と、家来にすることにしました。
京は三条の 大臣殿に
抱えられたる 一寸法師
法師法師と お気に入り
姫のお供で 清水へ
一寸法師は、十六になりましたが、背はもとのままです。
ある日、大臣の十三になる姫君のお供をして出かけたところ、打出の小槌を持った鬼が現れて、姫をさらおうと一寸法師を?み込んでしまいました。
さても帰りの 清水坂に
鬼が一匹 現れ出でて
食ってかかれば その口へ
法師たちまち 躍り込む
一寸法師は腹の中から針の刀でちくりちくりとつつきました。鬼はたまらず、
「これはただ者ではない。地獄を乱すくらい強いやつだ。逃げるが勝ちじゃ」
と、打出の小槌をうち捨てて、逃げて行きました。
針の太刀をば 逆手に持って
ちくりちくりと 腹中突けば
鬼は法師を 吐き出して
一生懸命 逃げて行く
一寸法師は、
「背よ、大きくなれ」
と、打出の小槌を打つと、ぐんぐん背が大きくなりました。
鬼が忘れた 打出の小槌
打てば不思議や 一寸法師
一打ちごとに 背が伸びて
今は立派な 大男
次におなかが減ったので、
「ご飯よ、出よ」
と打つと、ご飯が出て来ました。
その後、黄金、銀などを打ち出し、姫君とともに都で暮らすことになりました。
そして、お父さんとお母さんを呼び、幸せに暮らしました。
これもみな、住吉大明神のおかげと、毎年お参りを欠かしませんでした。 (もり・けん)