絵姿女房
昔むかし、百姓の夫婦がいました。美しい若い妻をかわいがり、ひと時も離れたくないという夫に、若い妻は戸惑いながら自分の顔を書いて
「いつもこれを持っていてください」
といいました。
夫は畑に出ると、絵を木の枝にさしてそれを見ながら畑仕事をしていました。すると、風が吹いて妻の絵が飛んでいきました。夫は追いかけましたが、とうとう見失ってしまいました。
絵はお城の中に飛んでいき、お殿様に拾われました。
「これは美しい。この人を探して私の妻にしたい」
家来たちは村中を探して、美しい百姓の妻を見つけました。妻をお殿様のお妃にするという家来に夫は泣いて断りましたが、無理やり妻を夫から引き離そうとしました。妻は夫にいいました。
「お殿様には逆らえません。秋にはお城にりんごを売りに来てください」
夫は、泣き泣き暮らしていました。妻はお城で、お殿様の呼びかけにも答えず、笑うこともありません。
夫はりんごが赤くなるのを待って、ついにその日になりました。背中にりんごを背負いお城に来ると、歌を歌いながら歩きました。
「りんご~りんご~甘いりんご~」
妻は笑顔を見せ、初めてものをいいました。
「りんごが欲しい」
とお殿様にいいました。うれしそうなお妃の顔を見ると、りんご売りを庭に入れていいました。
「りんご売りの歌を歌え」
りんご売りは幸せそうに踊りながら歌いました。妻は夫を見て歌を聞き幸せそうでした。お殿様はりんご売りになってお妃を喜ばせようと考えました。
お殿様の着物とりんご売りの着物を取り換えると、お殿様は背中にりんごを背負い歌いはじめました。お殿様はお妃が幸せそうに見ているのを喜んで門を出てしまいました。
町をぐるっと回ってお城の門に戻るとお殿様は門番に止められました。
「りんご売り、お前はお城には入れない」
「わしは殿様じゃ」
「殿様をかたる百姓め、さっさと帰れ」
お殿様はとうとう追い出されてしまいました。それから町で殿様を見たものはありませんでした。
百姓の若い夫はお殿様となり美しい妻と幸せに暮らしました。